クラブチームとして立つ、6日間の現場

2025年のISDEイタリア大会に参戦した日本人ライダーは、全員がクラブチームとしてこの舞台に立ちました。国別代表として整った体制で挑むのではなく、それぞれが自分たちの判断で準備を進め、6日間をどう走り切るかを考えながら、この大会に向き合ったのです。
今回参戦した日本人ライダーとチームは以下のとおりです。

  • ■ RIDGECYCLE(リッジサイクル)
    • 761 MASUDA Kenta— C1
    • 861 MANIWA Hayato— C1
    • 961 MORI Shintaro— C1
  • ■ MC MANETTA JAPAN
    • 751 OTA Yukihito— C1
    • 851 IKEDA Kouji — C2
    • 951 KOHAKU Aoki — C1
  • ■ JAPAN HV
    • 741 FUJIWARA Shinya — C3
    • 841 SUKENO Kenichi— C1
    • 941 KUSAKI Kotaro — C1
  • ■ HONDA BLUE HELMETS MSC
    • 731 GOTO Toshifumi— C1
    • 831 SERI Kazuki— C1
    • 931 OTO Hiroaki— C1
  • ■ PINO MEDEOT
    • 857 NAMEGAWA Katsuyuki — C2

今回トロフィークラスでの参戦ではなかったため日本代表パドックというものはなくクラブチームでもパドックが異なる場合などもありましたが「ISDEを走る」という目的のために、時間と費用、そして覚悟を積み重ねてこの地に集まりました。

レースは、スタート前から始まっている

今年の日本人ライダーの多くは、バイクをイタリアでレンタル、あるいは現地購入し、必要なパーツを日本から持ち込むという方法を選択していました。ISDEは、スタートゲートに立つ前からすでに始まっています。

ISDE-6days-italy-p8.jpg

レースウィーク前には、会場に隣接したテストコースでの走行が可能となり、そこでパーツの換装や細かなセッティング出しを行います。慣れない土地、慣れないバイク、慣れない環境。限られた時間の中で「6日間を走り切れる状態」を作り上げていく作業は、まさに戦いの準備そのものです。

パドックではさまざまな言語が飛び交いながら、レース開始に向けた準備が進んでいきます。言葉の壁は確かにありますが、ジェスチャーやスマートフォンの翻訳アプリを使いながら、最低限の意思疎通はなんとかなります。完璧に話せなくても、「走る」という共通言語があることで、人と人は自然につながっていく。それもISDEという現場ならではの光景でした。

ISDE-6days-italy-p9.jpg
フィンランドチームのボスとメカニックのやりとり

国もチームも越えて生まれる空気感

私が同行したRIDGECYCLE(リッジサイクル)のメンバーは、大会期間中、フィンランドチームのパドックに身を寄せる形で行動していました。国も言葉も違うチーム同士ですが、ISDEの現場では「6日間を走り切る」という共通の目的が、自然と距離を縮めていきます。
困っていれば手を差し伸べ、必要な情報があれば惜しみなく共有する。そうしたやり取りが、ごく当たり前のように行われていました。
国籍や所属を超えて受け入れてくれるこの空気感は、ISDEという大会が単なるレースではなく、「6日間を共に生きる場」であることを強く感じさせます。

ISDE-6days-italy-p10.jpg
リッジサイクルのライダーたち

日本人ライダーに向けられる、確かなリスペクト

現地で特に印象的だったのが、日本人ライダーに向けられるリスペクトの眼差しです。日本は、数多くのオフロードマシンやパーツメーカーを生み出してきた国。ベルガモの街中では、レース期間中、数多くの日本製オフロードバイクを目にしました。

ISDE-6days-italy-p11.JPG
テストトラックまでの道のりにたくさん路駐されてる日本のバイク

しかもそれらの多くが、20年、30年前に販売された車両でありながら、今なお良好な状態を保ったまま走っているのです。その背景を理解しているからこそ、「日本から来た」というだけで、一定の信頼と関心をもって接してもらえる場面が多くありました。
結果や順位以前に、オフロード文化を長く育ててきた国としての認知度の高さを、現地であらためて実感することになります。

日本では出会えない、ISDEの景色

そして何より、日本ではまず目にすることのない圧倒的な景色。レース期間中、メカニックサポートに同行してベルガモ各地のテストコースを回りましたが、そこには現実離れした風景が広がっていました。

ISDE-6days-italy-p12.jpg

岩山の向こうに続く稜線。深い森の中を抜けるシングルトラック。遠くまで見渡せる丘陵地帯や広大な牧場。石造りの建物が点在する集落。
まるで異世界に足を踏み入れたかのような感覚を覚える瞬間が、何度もあります。この景色の中を、自分の力で走り切る。それ自体が、ISDEに参加する大きな価値のひとつなのだと感じました。

そして、食文化もまたISDEの一部

日本人としては、食文化についても触れずにはいられません(笑)。小麦文化のイタリアでは、スーパーに行けば驚くほど多くの種類のパスタが並んでいます。生ハムをはじめとする加工肉文化も素晴らしく、レース期間中であっても、食事を楽しめる場面は少なくありません。
環境や景色だけでなく、その土地ならではの食を味わえることも、ISDEという大会の魅力のひとつです。過酷な6日間の中で、こうした日常の楽しみがあることは、精神的な支えとしても大きな意味を持っていました。

ISDE-6days-italy-p13.jpg

そして始まった、SIX DAYS

そしてSIX DAYSが始まりましたが、ISDEは事前に想像していた通りに進む大会ではありません。大会期間中、天候や路面状況の変化など様々な理由により、コースが急きょ変更、あるいはカットされる日もありました。前日の下見で確認していたセクションが、当日には全く別のルートに置き換えられている。それもISDEでは決して珍しいことではありません。
難所とされた区間では各国のライダーが集中し、自然発生的な渋滞が起きる場面も。狭いウッズや登り区間で一度止まれば、後続が次々と詰まり、思うように前へ進めなくなる。その中で、いかに冷静に対応し、体力と時間を消耗しすぎずに抜け出すか。ISDEは、走りの速さだけでなく、判断力と忍耐力が強く問われるレースだと改めて感じさせられます。

ISDE-6days-italy-p14.jpg

6日間の中で起きる、さまざまなドラマ

6日間を通して、すべてが順調に進むライダーはほとんどいません。小さなトラブル、想定外の出来事、判断の難しい場面が、必ずどこかで訪れます。ISDEでは、たった一度のトラブルが、その後の流れを大きく変えてしまうことも珍しくありません。
それでも、現場ではライダーもクルーも決して諦める空気はありません。修復できる可能性を探り、時にはライダー同士でパーツを受け渡し、ピットではスペアマシンからパーツを剥がし次につなげるために動く。その姿は、ISDEという大会が「完璧な走り」を求める場所ではなく、「どう立て直すか」「どう6日間と向き合うか」を問う舞台であることを、物語っています。

ISDE-6days-italy-p15.jpg
馬庭選手の破損したパーツ。これにより馬庭選手はDNFに

走り切るということの意味

渋滞やルート変更、コンディションの悪化。そうした要素が重なっていく中で、日本人ライダーたちは、それぞれのペースで6日間を積み重ねていきました。結果として、1名を除く日本人ライダーたちは、最終日まで走り切り、完走を果たしています。
この「完走」という言葉は、ISDEでは特別な意味を持ちます。ただスタートしてゴールするだけではない。6日間、変化し続ける環境の中で、マシンと身体を保ち続け、判断を重ね、諦めずに前へ進み続けた証です。
順位やタイムだけでは測れない価値が、そこにあります。

ISDE-6days-italy-p16.jpg
フィニッシャープレートと琥珀選手

ISDEという舞台が教えてくれること

ISDEは、派手な勝敗だけを追うレースではありません。不確実な状況の中で、どう向き合い、どう走り切るか。その積み重ねこそが、この大会の本質です。
日本人ライダーたちが、それぞれの形でこの6日間と向き合い、多くがフィニッシュラインにたどり着いたこと。その事実こそが、2025年イタリア大会を象徴する結果だったように思います。

また、SIX DAYSの魅力は走りだけで語られるものではありません。限られた時間の中で行われるピット作業もまた、このレースを形づくる重要な要素です。

ISDE-6days-italy-p17.jpg
ピット作業

6日間を見据え、何を整え、何を触らず、何を信じて送り出すのか。その判断は、クラブチームであっても、世界のトップライダーであっても変わりません。

2025年イタリア大会では、ジョセプ・ガルシア、アンドレア・ヴェローナといったメッツラーを装着するトップライダーたちが、6日間を通して安定した走りを積み重ね、その存在感を示しました。
彼らの強さは、単なる一発のスピードではありません。6日間という時間軸の中で崩れないこと。そしてチームや国別対抗という文脈の中で、「どう走るべきか」を理解したうえでの速さでした。
ピットでの判断。タイヤの選択。そして6日間をどう積み重ねるかという時間感覚。
そのすべてが噛み合ったとき、メッツラータイヤに刻まれた「6DAYS」という名前の意味が、はっきりと浮かび上がってきます。
次章では、このイタリア大会でのトップライダーたちの走りと、現場のピットで見えてきた視点をもとに、なぜメッツラー「6DAYS」タイヤが、世界中のライダーから選ばれ続けているのかを掘り下げていきます。