週末の雨により、JNCC全日本クロスカントリー選手権第5戦が開催された長野県「ワイルドボア鈴蘭」のコースは、ヘビーマディコンディションへと変貌しました。深い轍、滑りやすいキャンバー、そして「オロチ」をはじめとする難セクションが次々と現れるコースは、多くのライダーにとって過酷なサバイバルレースとなりました。IAクラスのトップライダーである馬場亮太選手は、この難局を乗り切るため、リヤにピレリのスクープタイヤ(土や砂などの柔らかい路面で優れたトラクションを発揮する特殊なタイヤ)・MX SOFTを装着。不運の転倒により3周でレースを終えることとなりましたが、その短い周回の中で見せたタイヤの圧倒的なパフォーマンスについて、詳しく語ってくれました。

IAクラス 馬場亮太選手、圧倒的な走破性を見せるも不運のリタイア

マディの鈴蘭にピレリ・MX SOFTで挑むも、不運の転倒で序盤にリタイア

レースウイークは一貫して雨予報。馬場選手は当初、「エンデューロライダーはFIMタイヤだろう」という考えからFIMタイヤを準備していましたが、JNCCのトップライダー達から「鈴蘭の雨なら絶対に硬いタイヤだ」という強力なアドバイスを受け、直前でタイヤ選択を変更。リヤにピレリのスクープタイヤを装着するという決断を下しました。

レースが始まると、その選択が正しかったことをすぐに証明します。他のライダーが苦しむマディの登坂セクションでも驚異的な推進力を発揮。3周目にはグローブを交換し、本格的なアタックを開始。「全然ただのちょっと酷いマディじゃん、という感覚で回れていた」と、まさにこれからというタイミングで不運にも転倒を喫し、レースを終えることになりました。「転ばなければ、現実的に3位は狙えたと思います」と、そのポテンシャルの高さを悔やみました。

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使用タイヤとフィーリング:フロントにメッツラー、リヤにピレリの必勝コンビ

  • フロント:METZELER MCE 6 DAYS EXTREME 90/90-21 M/C 54M M+S (スタンダード)
  • リア:PIRELLI SCORPION™ MX SOFT 120/90-18
  • ムース: フロント 0.5〜0.6気圧相当 / リヤ 0.3〜0.5気圧相当 (ビードストッパー3個使用)

今回のタイヤ選択について馬場選手は、「フロントはどんなマディコンディションでも絶大な信頼を置いているいつものメッツラー・シックスデイズエクストリームです。リヤは雨予報だったので、とにかく登りや埋まりそうなセクションで前に進んでくれるタイヤが良いと考え、ピレリのスクープタイヤにしました」と、その理由を説明しました。

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特筆すべきはリヤのセッティング。ムース圧を自身初となる0.3気圧相当まで落とし、万全を期して挑みましたが、これがマディの鈴蘭で驚異的なパフォーマンスを発揮しました。

「普段FIMタイヤしか履いていないので、MX SOFTでのマディはこんなに楽なのかと驚きました」と馬場選手は語ります。「FIMタイヤだと、空転させないようにスロットルを非常に緩やかに開け、スピードが乗ってから全開にする必要があります。空転は左右の振られに繋がるので、トラクションを稼ぐために上体を起こし気味に乗ることが多いんです。でもスクープタイヤはまったくその必要がありませんでした。ゼロ発進でも、一瞬ググっとスリップしたかと思うと、次の瞬間には地面を掴んで力強く前に進んでくれる。普段ならこれは再発進できないなと思うような場面でも、普通にスロットルを開ければすぐに登っていくんです」

この圧倒的な推進力は、ライディングにも大きなメリットをもたらしました。「MX SOFTはどこに座っていても前に進むので、ポジションの自由度が非常に高い。加速したい時にしっかり体を前に伏せることができ、上体が遅れないので腕への負担も少なくなります。次のコーナーへのアプローチもスムーズになる。この差は大きいですね」

一般的に横方向のグリップに弱いとされるスクープタイヤですが、ピレリのMX SOFTはその常識を覆しました。「オロチ手前の逆バンクになっているキャンバーは、多くのライダーが苦戦していましたが、まったくリヤがずれませんでした。普通なら下に落ちてしまうような場面でも、狙った高いラインを簡単にキープできる。横のブロックがしっかり機能していて、低圧にしたこともあり、表面で滑ることなく地面に食いついてくれました。この横グリップはピレリの強みだと思います」と、そのコントロール性の高さを評価しています。

実際に、レース後半の難化したヒルクライムでは、柔らかいコンパウンドのタイヤを選択したライダー達が軒並みスタックしていたという情報もあり、馬場選手のタイヤ選択の的確さを裏付けています。「同じMX SOFTを履いていた内山泰臣選手(COMP-A 2位)も『登れない気がしなかった』と話していました。タイヤが良すぎて、適当に開けていれば勝手に登っていったそうです」と、その性能の高さを改めて強調しました。

不運な結果に終わったものの、馬場選手はヘビーマディの鈴蘭において、ピレリのスクープタイヤが持つ圧倒的なポテンシャルを証明しました。この経験を糧に、次戦以降のレースで彼がどのような走りを見せてくれるのか、大いに期待が高まります。

■PIRELLI - SCORPION™ MX32™ MID SOFT
https://www.pirelli.com/tyres/ja-jp/motorcycle/catalog/product/scorpion-mx-32-mid-soft-new